猫を、拾った。
 小さな可愛い、黒猫を。





ずぶ濡れの猫





 猫といっても、その辺にいる一般的な動物ではない。それどころかちゃんと人間の顔、手足、体をしていて、ぱっと見人間の少年だ。
 それでもその子を『猫』と称したのは、人間にはあるはずのないものがあったから。

 頭の左右にぴょこんと飛び出す三角形の耳に、長く、手入れされた尻尾。
 しかし今はそれら…耳はぺったりと伏せられ、尻尾はくるりと自身を一周して巻き付けている。

 その猫は、この寒い冬の季節、大分前に潰れ廃れた雑貨屋の庇の下で、小さい体を精一杯丸めて自身を温めようとしていた。だが激しい雨が降る中そんなことで温かくなるはずもなく、体が雨に濡れガタガタと震え、息も荒かった。
 意識もなくて、そのままほって置いたら死ぬのは時間の問題だった。




 だから、拾った。

 いつもならどんなことにも見向きもしない彼が、

 少年に、手を伸ばした。





    †  †  †





「さぁて、どうしようかなぁ」

 ロイドはふぅ、と息を吐いた。
 彼が見下ろす先には、彼のベットの上で苦しそうに呼吸する一人の少年。

 一体どれほどあそこにいたのか。額に手を当てるとそこはひどく熱くて、ロイドは慌てて着替えさせて(子供服などないのでロイドの服だ。髪も簡単に乾かした)ベットに寝かせた。
 氷枕や冷却シート。慣れない代物をあたふたしながらも用意して、今やっと落ち着いたところだ。

「…なんで、拾ったのかなぁ…」

 言いながら屈み込み、せわしなく呼吸する少年の前髪をはらった。
 熱のせいで顔は赤く、苦しくないようにとYシャツは2つ程開いていて、なんていうか……色っぽい。

「って何考えてるの僕はこんな男の子に…!」

 うわぁ〜、とベットの裾をにぎりしめ顔を押し付け悶えるロイド。はたから見れば結構怪しい光景だ。

「……ともかく」

 気を取り直すとばかりに取り繕う。側に誰もいないのに(少年はいるが…)いちいち声に出すとは、中々恥ずかしかったらしい。

「今夜は徹夜…かな」

 大変だ。

 ロイドは少年の髪を撫でながら、思いとは裏腹に微笑んだ。




 さぁ、早く目覚めて。

 聞きたいんだ、君の声を。

 知りたいんだ、君の事を。

 見たいんだ、隠されたその瞳を。



 さぁ、早く目覚めて。



 ロイドは無意識に、少年の手を握った。

 夜は、更けていく。