※ギアスとラブレスのWパロ。
一応ルルは皇族。
ルルは安全面を考慮してクラブハウスに住んでます。
「……なんでお前が此処にいるんだ」
はあ、とため息をつき、ルルーシュは額に手をあてた。
しかしその原因である目の前の男は、ニヤついた笑みを浮かべながらこちらを見つめているだけだ。
他者には決して感情を悟らせぬ顔。それでもこの男の心情を見破れるのは、世界広しといえどもルルーシュだけだろう。
そういえばこいつの気に食わない笑み以外の表情ってそうそう見ないよな、と思っていると、不意に近付いてきた男の白い指に顎を取られた。
くい、と上に向かされた視線の先には、自分とは正反対の色彩を放つ髪に、光に反射するレンズの奥で輝くアイスブルー。
眩い色相に綺麗だななどと何気なく感じていると、いつの間にかそれらが視界の中心から消えた。
しかし視界の端にちらりと映ったプラチナの色と身体を包む熱に、嗚呼自分は抱きしめられたのか、とまるで傍観者のように悟る。
「……お会いしたかったですぅ」
蚊の鳴くような声で呟いて首筋に顔を埋めてくる男の頭を、仕方ないなと苦笑して優しく撫でてやった。くしゃりと柔らかい髪を指と指の間に絡ませ、反対の手で幼子をあやすように背中をリズムよく叩けば、抱きしめる腕の力が増す。流石にちょっと苦しい。
「おいロイド、いくら久しぶりの逢瀬とはいえ、そんなにきつく抱きしめたら俺の肺が潰れる」
「……すみません…」
ルルーシュの一言にやっと腕の力は弱まったが、それでも温もりが離れることはない。どうやらしばらくルルーシュを離す気はないようだ。
しかしルルーシュとしてもこの体勢は落ち着くからこのままで構わないと思う。ロイド本人には一生言ってやらないけれど。理由は簡単。調子に乗るから。
一人で勝手に自己完結したルルーシュは、とりあえず理由は予想出来るが一応訊こうかと口を開いた。
「随分と来るのが遅かったじゃないか。最後に会ったのは二週間前か?」
「そうですよぉ」
腕は腰に回したまま上半身だけ話したロイドは、忌ま忌ましげに眉を歪めた。
「またあの性悪がたんまりと仕事増やしてくれましてねぇ。絶対アレ、殿下に会いに行く時間を与えないよう意図的にやってるんですよ」
「そうだな。何故か俺はシュナイゼル兄上に気に入られてるから」
しょうがないさと言えば、ロイドは釈然としないながらも頷いた。
そう、ルルーシュはどうしてだかシュナイゼルにえらく目をかけられていた。
思えばシュナイゼルは幼い頃からルルーシュの才能の片鱗に気付いていたのだろう。場を支配し、他を無条件に平伏せさせるルルーシュの生まれ持つカリスマ性に。
現に、ルルーシュは昔からシュナイゼルに何かと教えてもらうことが多かった。基本的な学問から、子供が手を出すことなどあるはずもない政治や戦略についてまで。今思えば、当時からブリタニアの重要な地位についていたシュナイゼルに、ただの異母兄弟というだけでそこまで気にかけてもらうことなど有り得ないことなのだ。
そうして幼少の頃から手塩にかけてルルーシュに多くの知識を与えてきたというのに、その大事なルルーシュの戦闘機がこの世で一番気に食わない人間だとしたら、邪魔をしたくなるのも当然と言える。
兄には昔から世話になっているので、ルルーシュとしてもそう強く言えないのが正直な気持ちだ。
それに、ルルーシュとロイドの、サクリファイスと戦闘機としての絆は堅い。部外者であるシュナイゼルが手を出せぬほどに。
そして恐らく、それを兄は分かっているのだろう。それでもこうして手を出すのは不完全である人間の性か。
しかしルルーシュが強く言えないのは、今までの感謝の気持ちとは別に、兄に大事にされてるという嬉しさがあるのも一因だったりする。
ロイドと確固たる絆が結ばれている今、この二人との距離感は非道く心地良いのだ。
「まぁ待ってろ、今紅茶でも淹れてくるから」
そう言ってロイドから離れようとするけれど、反対にロイドはルルーシュの腕を引っ張って傍のソファへと導いた。
予想外の行動に驚き反抗する余裕もないルルーシュを座らせる。
はっとルルーシュが我に返った時には、すでにロイドはルルーシュへと跨り、再度抱きしめ頭に顎を置いていた。
「おいこら、キッチンに行けないじゃないか……!」
「紅茶なんかいいですよ、殿下を抱きしめてる方がよっぽど有意義ですし。それより……」
一旦言葉を切り、ロイドは目の前の猫耳を掴んだ。
ロイドの胸に顔を埋めるルルーシュはロイドの動きが見えない為、突然触れられピクリと身体を震わせる。
「おい……」
「すいません。ただ、まだしてるんだなぁって思って。……付け耳」
「……ないと面倒だからな」
ふわふわとして触り心地のよいそれが精巧に作られた偽物だと知っているのは、ロイドとルルーシュのみだ。必然的に、ルルーシュの耳を落としたのはロイドであるということ。
「……ある方が面倒な気がするんだけどなぁ」
この歳で耳があるということは、自分はフリーだと言っているようなものだ。だから男も女も無意味に群がってくるのだろう。
幸い今まで目立った事がないのは、恐らく皆ルルーシュを高嶺の花といった意識で見ているからだ、というのはロイドの推測。実はその通り。
しかし色事に疎いルルーシュがそんなことに気付くはずもなく。
だんまりとなったロイドを見つめ、拗ねるように口を尖らせた。
「そう言うロイドだって付け耳してるじゃないか」
「当たり前でしょう」
すぐさま即答してきた言葉に、ルルーシュはきょとんとしてロイドを見上げた。
目が合ったアイスブルーは、どこか呆れた色を滲ませている気がする。
さらに首を傾げれば、はあぁ、と深い深いため息を吐かれた。
「いいですか? 僕は貴方のもので、貴方は僕のものなんですよ」
「それは分かってる」
諭すように言うロイドにムッとしつつ先を促せば、徐に偽物の耳を撫でられた。
「だから未来永劫、僕の全てを貴方に捧げるって決めてる。なのに僕だけ耳落としてたら、周りから見れば不公平でしょう? そんなことで、貴方が見下されたりけなされたりするのは嫌ですから」
「ロイド……」
「と、いうわけで、」
神妙な顔から一点、にへらと笑みを浮かべたロイドは、素早い動きで自分とルルーシュの付け耳を外すと、ぽいぽいと床へ無造作に投げ付けた。
ああそれ結構高いのに、と胸中で呟くやいなや後ろに押し倒され、ルルーシュはぎょっと目を剥く。嫌な汗が背中を伝った。
「ロ、ロイド……? お前何を……」
「だーいじょうぶ。優しくしますから!」
やっぱりか!
慌てて起き上がろうとするが、見た目に反し力の強い男に組み敷かれては抵抗の余地はない。
「今まで会えなかった分、たくさん楽しみましょうねぇ」
「待てロイドっ……んう!?」
なおも抵抗しようとするルルーシュの唇を己のそれで塞いだ。
隙間から舌を差し込み、好き勝手に口内を弄る。
ゆっくりと顔を離せば、頬を上気させ息を切らしたルルーシュが恍惚としてロイドを見つめていた。暴れていた腕からはすっかり力が抜けている。
二人を繋いでいた銀色の糸がルルーシュの口端を伝う様はこれ以上なく妖艶で、さらにロイドを煽った。
「さ、ルルーシュ様。此処からが本番ですよ」
ニヤリと笑うと、ロイドは眼鏡を外し勢いよく宙へと放り投げた。
Only cat!!