※25話派生。















 目を開ければ、そこは見知らぬ世界だった。










「………」

 はて、と首を傾げた。

 踏み締める地面には生き生きとした緑が敷き詰められている。見上げた空は青く澄み渡り、視界には雲一つ見当たらない。ずっと眺めていても、ただ鳥達が優雅に舞う姿が見えるだけだ。

「………」

 いい加減首が疲れたので視線を戻しつつ辺りを見渡せば、ふとそこかしこに咲き誇る花々があることに気が付いた。美しい。華美に飾られたものとは違う、自然に淘汰された麗しさだ。

「………」

 はて、と再び首を傾げた。

 見知らぬ? 本当に此処を、自分は知らないのだろうか。いや、違うだろう。自分は此処を知っている。ただ、あまりにも記憶が曖昧で、現実にするには困難で、中々気付けなかったのだ。

 そう、此処は――

「――アリエス」

 一番幸せで、暖かかった場所。笑い声に包まれた空間。思い出の原点。

 何故あるのだろう。この場所は8年前とうに失われて、仮にあの皇帝が残していたとしてもフレイヤで吹き飛んだはずだ。第一、自分はもう世界にすら存在していないはずなのに。

 ぐるぐると回る答えの出ない思考。しかし意外な人物により、その空回る回転は遮られた。

「あ、いたいた!」
「――え?」

 やっと見つけた、と嬉しそうに駆けてくる少年。ふわふわのミルクブラウンの髪を揺らす姿は見慣れたものではあるが、同時にもうすでに見ることも叶わないと思っていたものだ。有り得ないその人物に、一気にフリーズした頭では碌な言葉も出るはずもなく。

「――ロロ」

 ぽつりと、その名を呟くことしか出来なかった。

「そうだよ、ロロだよ」

 しかしロロはその動揺を気にするでもなく、頬を綻ばせながら彼よりも大きい手をその両手で包んだ。

「もう! 心配したんだから。何時まで経っても姿が見えなくて、迷子になってるのかと思っちゃった。……あ、もしかして本当に迷ってた?」
「いや、そんなことより、」
「待った。混乱しちゃうのは分かるけど、まずは行きたい場所が……会わせたい人達がいるんだ」

 ロロは反論を許さないといわんばかりににこりと笑い、戸惑う心情を尻目に「早く早く」と腕を引っ張る。
 そうして連れて行かれた場所は、記憶の中と何一つ変わらなかった。

「懐かしい? アリエスの離宮。僕は実際生きてた頃見たことないから分からないけど、外だけじゃなくて部屋の中も昔と変わってないみたいだよ」

 ロロが楽しそうに教えてくれるけれど、残念ながら反応することは出来なかった。懐かしのテラスに佇む人影に、再び混乱に陥った脳はロロの言葉を右から左に流してしまったのだ。

「あ、ロロおかえりー! 見付かったんだね!」
「うん、庭園でぼーっとしてたみたい」
「まぁ。でも、らしいと言えばらしいかも」
「ユーフェミア殿下!」
「ごめんなさい。……でもその呼び方は止めて下さいと、何度も言っているでしょう?」
「う……ご、ごめんなさい、慣れなくて。……ユフィ」
「よろしい、シャーリー」

 言って、からからと笑う二人の少女――シャーリーとユーフェミアは、陽光の当たるテラスの手摺りに仲良く寄り添っていた。ロロ達がテラスに近付くやいなや、ぱたぱたと駆けてくる。

「遅いですわ!」
「本当。どうしたのかと心配しちゃった」
「……いや、」

 どうしたのかと聞きたいのはこちらの方だ、と胸中で独りごちる。
 ただでさえロロが現れて混乱していたのに、さらに彼女らまでとくれば頭がショート寸前だ。

「ユフィさん、シャーリーさん。そんなに詰め寄っても混乱を助長させるだけですよ」
「あら、私ったら」
「ご、ごめん」

 ロロに苦笑を含んで諭され、はっとなったユーフェミアとシャーリーが慌てて身を離す。正直限界まで詰め寄られかなり腰が引けていた為助かった。客観的に考えて、その姿はあまりにも恥ずかしすぎる。

「私達、待ってたんですよ、貴方を」
「……俺を?」
「はい」

 驚いて問い返すが、ユーフェミアは当然とばかりに頷く。しかし理解出来るはずもなかった。だって自分は彼女の、彼らの未来を踏み躙った存在で。

「俺はお前を殺して……ロロやシャーリーだって俺のせいで……」
「こら!」

 そんな資格などないと返そうとするが、言う前にシャーリーにぺちんと額を叩かれてしまう。

「まぁたそんなこと気にして! 今更そんなのなしだよ!」
「だが……」
「私もユフィもロロもみんな許したよ。私はロロのことだって許した。後は貴方だけ」
「……俺?」

 そう、とシャーリーは頷いた。

「後は、貴方が貴方を許すだけだよ」

 許す? 自分を?
 何を今更、と思う。
 すでに許す、許さないなど関係ない場所にまで来ていた。そんなこと関係なく、ただ進むしかなかったのだ。

「……俺は……許すことなんか……」
「分かってるよ。人はそう簡単に許せないって。でもね、それは許せないだけなの。許さないことなんて、本当は世界の何処にもありはしないんだよ」

 だから、とシャーリーは言葉を紡ぐ。

「だから貴方が貴方を許すその時まで、私達はずっと傍にいようって決めたの。時間が掛かってもいい。どうせスザクくんとナナちゃんを待つつもりなんでしょ?」
「その間ずっと自分を独り責め続けるなんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがありますよ」

 ユーフェミアがおどけた口調で言って笑う。そんな顔をされると、まるで本当に些細なことで悩んでる莫迦みたいだ。

「前の約束は守れなかったけど、今度は絶対だよ。僕はずっと傍にいるから」

 そう言って、ロロはぎゅっと手を握ってくる。泣けるくらいに温かかった。最後に触れた彼は、まるで凍えてしまったかのような冷たさだったから。

「そうと決まれば、これからは嫌というほど幸せにしてあげます! 異論は認めません! そうだ、まずは紅茶でも飲みましょう! 私、頑張って淹れ方練習したんですから!」
「あ、ずるい! 私だって!」
「シャーリーさん、ユフィさん」

 一つ忘れてます、と言いながらロロはこちらを見つめる。
 そうだった、と言わんばかりに慌ててこちらを向く二人だが、一体何が忘れているのかさっぱり分からない。

 不思議がる自分を尻目に、三人は嬉しそうに笑った。

「お帰りなさい、兄さん!」
「お帰りなさい、ルル!」
「お帰りなさい、ルルーシュ!」

 あまりにも、あまりにも幸せそうに言うものだから、

「……ただいま」

 この現実を受け入れるのもいいかもしれないと、彼――ルルーシュは思った。









拝啓、




彼は亡くなったらユフィやシャーリーやロロに囲まれて幸せに過ごすに違いないという勝手な妄想から生まれました。あと、彼には自分を許す時間が必要かなと。ちなみに三人はちゃんと現世の様子を見てました。だからあんな風に迎えられたんです。これからは現世を眺めるメンバーにルルが加わります。皆でハラハラドキドキしてますよ(笑)

三人はルルを待っていたので、ルルがいかないならスザクとナナリーが来るまできっと仲良く待ってます。ついでにルルが自分を許せる時間が出来るからいいじゃんみたいなノリです。ええ、此処の人は基本的にのほほんとして軽いです(笑)

せめて死んだ後は皆で幸せに暮らしてね、ルルーシュ!
あと今思い出したんですが、クロ兄様出すのすっかり忘れてました! あははごめんねクロ兄!←

因みに最後の最後までルルーシュの名前が出てこないのはわざとです。


2008.9.29