フレイヤによって消失したブリタニアの帝都、ペンドラゴン。しかし悪逆皇帝ルルーシュが死したのちに、その場所は着実と復旧を始めていた。
第100代皇帝として着任したナナリーが住むアリエス宮もまた、その一つだ。
「――お兄様」
広大なアリエスの庭園。中でもアリエスの宮に隠れるようにひっそりと、けれど決してもう離れぬようにと作られた質素な墓の前で、彼女は佇んでいた。開く藤色の瞳は、優しく微笑んで、哀しく愁いて兄の眠る場所を見つめている。
お兄様。貴方が私の目の前で亡くなられてから、もう一年が経ちました。その間に、世界は随分と変わりました。少しずつですが、お兄様の望んでいた世界になりつつあります。
勿論、全ての争いの火種がなくなったわけではありません。どれだけ多くの人々が平和を祈ってもそれを気に入らない方は少なからずいて、“悪逆皇帝ルルーシュ”を崇拝していた方達もきっと水面下で動いていることでしょう。
今日私へ微笑んでいた人がいつ裏切るか分からない。
そんな現実に時々挫けそうになるけれど、その度にお兄様を思い出して今まで歩んできました。お兄様が下さったこの平和への礎を、決して壊されないように。ただそれだけを思って。――そういったら、貴方は困ったように笑ってくださるのでしょうか。俺の為じゃなくて、世界の為ではないのかい、と。
でも、違うのです。何時だって私の世界はお兄様で、私の唯一はお兄様でした。だから貴方が死した今も、私は貴方に縋って生きる他ないのです。
そして、平和を目指し奔走して一年。世界は、着々と優しい世界に近付いています。ずっと昔から私が望んだ、優しい世界に。そのはず、なのに、
「私にはまだ、この世界は残酷なのです」
とても寂しくて、とても暗くて、とても悲しくて、とても虚しくて、とてもとても寒いのです。
だって、貴方がいないから。
貴方の温もりが、何処にもないから。
――優しい世界が欲しかった。
でも、私が望んでいた世界は今描きつつある世界ではないことに、貴方の最期の顔を見るまで、気付くことが出来なかったのです。
――優しい世界が、欲しかった。
貴方とずっと生を歩める、世界が欲しかった。
私はお兄様がいて下されば、それで良かったのです。
ナナリーの望んだ優しい世界は、お兄様と在れる世界だったのです。
「でも、もう何処にも、お兄様はいない……っ!」
遅すぎた想い。遠すぎる願い。気付いた所で、貴方はもう屍となる寸前だった。
ナナリーと、愛しげに名を呼んでくれる声はいない。
おかえりと、優しく抱きしめてくれる温もりはない。
愛してると、心から想い囁いてくれる人はいない。
もう決して、私に優しい世界が訪れることはないのです。
「お兄様、お兄様、お兄様お兄様お兄様お兄様!!」
愛しています。お兄様、愛しています。愛しています。例え世界が貴方を呪おうが、ナナリーはずっと、ずっとお兄様を愛しています。
「――だから、私は生きます」
二度と優しさなど訪れぬこの残酷な世界で、私は生き続けます。貴方が最期まで愛し慈しんだこの世界を、だからこそ、私は往き続けましょう。
そして、貴方が愛した人々に、優しい世界を。
紡ぐ世界は貴方の為に
最終話を見て、ナナリーには一生優しい世界が訪れることはないのだろうと思いました。結局、一番依存していたのは彼女だったんですね。
本当はスザク(というかゼロ)も出てくる予定でしたが、これで区切りがいいので一度切ります。続きは書くかもしれません。