夜も更けた頃、ある小高い丘に忙しなく動く女がいた。

 月光に輝くライトグリーンの髪を一つに纏めた女は、休む間もなくせっせとスコップで足元の土を掘り返していく。掘っては土を放りまた掘ってはと単調な作業を繰り返して数時間かすると、いつの間にか目的としていたものの全貌が現れるまでに掘り進んでいた。

「このくらいでいいか……」

 ぽつりと呟いた女は今まで持っていたスコップを後ろに放り投げると、不満げに眉を寄せて足元の四角い箱を――棺桶を蹴り上げる。

「おい、いい加減寝てるふりなんかしてないでとっとと起きろこの童貞坊やが」

 刺々しいその声に反応してか、その言葉を聞いた直後ごとりと何かが動く音がして――棺桶の“中から”がたりと蓋が開けられた。

「相変わらず口が悪いな、魔女め」

 よっこらしょ、なんて見た目の麗しさに反してなんとも年寄りくさい声を上げながら這い出た棺桶の主は、質素な白色の装束に付いた埃をぱんぱんと軽く落とす。
 その所作に魔女と呼ばれた女は片眉を吊り上げた。

「お前こそ、性格が捻くれているのは全く以って母親譲りだ」
「褒め言葉として受け取っておく。大体誤解しているようだが、俺は寝てるふりなどしていない。中々に居心地が良かったから本当に寝ていたんだ」
「だったら未来永劫あそこに居た方が良かったか?」
「冗談。まさに生き地獄だ。まぁお前が頑張っている間に寝ていたことに関しては詫びよう」
「全くだ。……ったく……女である私に肉体労働など……」
「ほう? 魔女が俺に女であることを求めるのか。随分丸くなったな」
「……そういうお前は一度死んで性格悪くなってないか」

 気のせいだろう、とくすくす笑う目の前の男は間違いなく性格悪くなった。昔はからかいがいがあったのに、とC.C.は胸中で嘆く。

「しかしシャルルのコードを継承した身とはいえ、流石に心臓を串刺しにされた時は死ぬかと思った」
「私との邂逅時に私が頭を撃たれた気持ちが分かったか?」
「嗚呼。不死の身とはいえ、あんな胸糞悪くなる事は極力避けたいな」

 そう、ルルーシュは密かにシャルルのコードを受け継いでいた。しかしそれが発動するのが、己が殺されるまさにその瞬間だったのだ。

 ゆえに自分が不死であることも刺された後に気付いたのだが、まぁそれに関しては特に恨み言はない。不死として生きるのは苦痛となるかもしれないが、C.C.と共になら――認めたくないが――軽減されるだろう。ただ一つ悔やみきれないことといえば――、

「まさか最後の最後でナナリーに記憶が流れ込むとは予想外だった。……俺は、仮面を被り続けることが出来なかった」

 ゼロとなったスザクに刺され、ナナリーの元にまで転がり、ああこれでもう二度とナナリーの顔を見ることはないのだと思っていた矢先にナナリーがルルーシュに触れてしまった。真実を知った刹那に顔が歪み、泣き叫ぶナナリーを思い出すだけで胸中に多くの後悔が渦巻き、途方もない辛苦が貫く。最後に「愛してる」と言われた事はもちろん嬉しかったが、ナナリーにあんな顔をさせてしまったことが何倍も辛い。
 しかしルルーシュの心中とは裏腹に、「いいじゃないか」とC.C.は口を開いた。

「あのまま知らなければ、ナナリーは一生お前を恨み、お前を恨む自分をその何倍も憎むこととなっただろう。真実はあの子供が前を見据える礎となった。お前を素直に愛せるナナリー自身の心が、ナナリーの、そして世界の未来を作るんだよ」

 お前の欠点は自分を過小評価し過ぎることだ、とC.C.が睨めば、うっと言葉も出ないのかルルーシュがたじろぐ。
 その様子ににやりとC.C.は笑った。どうやら未だ口では自分の方がやや上らしい。

「それで? これからどうするんだ。時間なんて腐るほどあるから急がなくても構わんが」

 C.C.の言葉に気を取り直したのか、「そうだな……」とルルーシュは夜空を仰いだ。

「とりあえずは服だな。こんな死に装束では目立ちすぎるし、あと俺は悪い意味で有名過ぎるから変装もしないと」
「不便だな」
「まぁな。……そうだ。オレンジが食べたい気分だ。というわけでジェレミアの所にでも行くか」
「おい。どうしてジェレミアがオレンジ畑を耕していることを知っているんだ」
「俺はルルーシュだからな」
「人の科白をとるな」

 双方憎まれ口を叩きながら緩やかな傾斜を降りていく。しかし口調とは裏腹に、二人の顔には淡い微笑が浮かんでいた。

「これからもよろしくな、魔王」
「こちらこそ、魔女」















やっちゃったL.L.話!
私はいつも本編は本編、同人は同人と線引きをもっていたので、派生で本編に反逆するようなことは書かないと決めていたんです。
ただ最終話、あまりにルルが生きているか死んでいるか判別つかないようにするものだから、「これはルル生存話を書いていいというお達しですね!」と勝手に思いました。←

で、ここに今回疑問に思ってたナナリーに記憶が流れ込んでいた理由っぽいものを詰めてみました。ナナリーはギアスを持っていないし、なら妥当なのがC.C.に触れた時と同じだったのではないかと。実際何ででしょうね←←

この後ジェレミア編、あともしかしたらスザク編に続きます。懲りずにすみません……。

2008.10.1