※Ｒ２の記憶喪失設定。
ルルはスザクの記憶も消されてます。
「賑やかだねぇ」
様々な人間が生み出す喧騒に紛れ、ナイトオブラウンズのナンバー３であるジノ・ヴァインベルグは、平日の大通りを歩いていた。
何処を見ても人、人、人。周囲は高々と積み上げられたガラスケースのようなデパートや、わざと古臭く装飾された服屋などと統一性はまるでないが、何処もかしこも「さぁ入っておいで」とまるで餌を待ち構えているかのようにその大口を開けている。間違ってはいない解釈だろう。
「あいつも来ればよかったのに」
此処、エリア１１に着いたのがつい先程。ナイトオブセブンである彼の同僚は一年前までこの地にいたと聞いている。
だから懐かしついでに一緒に来いよ、と誘ったのだが、そんなに暇じゃないと一刀両断されてしまった。なんだ俺はそんな暇人に見えるのか。
ともかく、結局は誘いを断られ、つれねーよなーとひとりごちてから租界を回り始めて一時間。貴族出身なボンボン育ちであるジノには中々味わえぬ世界に、外見ではすましていながらも内心かなり心躍らせていた。
(すげーなー。全く縁がなかったってわけでもないけど、最近忙しくてこういう普通なことに触れる機会少なかったし、新鮮だ。ってあれ？)
平日にしては賑わう大通り。だのにただ一箇所、その精巧な人のラインを歪ませる場所があった。まるで――いや、まさに人々は、括れた“その場所”を避けている。
「……行ってみるか」
生来ジノという人間は好奇心というものが他者と比べ卓越している。所謂、なんでもかんでも楽しそうな物事には首を突っ込みたくなる野次馬タイプ。
もちろんそれは時と場合によっては自重するが、今はオフであるからその必要も皆無であろう。
よしと判断したジノは、人込みを掻き分けその場所へと歩を進めた。
端的にいうと、ルルーシュ・ランペルージはピンチであった。
目の前の状況――壁に背を預ける自分を囲むように立つ男達を見回し、内心ため息を吐く。
(面倒なことになったな、本当に)
事の発端……というか、発端のさらに発端まで掘り進めると、相変わらずお祭り好きである会長がそもそもの根源だった。
いきなりいい企画を思い付いたとか吐かして、いきなりの加算出費にルルーシュの頭が計算をしだす前にそれを察した会長が弟のロロをも引っ張りだし、いきなり二人を学園の外へ放り出したかと思えば有無を言わせず買い物リストと財布を押し付けられた。
本当に、何もかもがいきなりだ。
突発的な事態に弱い自分を知ってのことかと当然の如くルルーシュは憤り、もう仕方ないじゃないと姉を宥める弟の図はもうすでに慣れたもの。
ルルーシュも弟に言われてはもう反論出来ず、後で覚えていろと毒づきつつ買い物に勤しんでいたわけだ。
が。
(この人込みでうっかりロロとはぐれるし、こういう時に限ってこんな輩に目を付けられるし、全く碌なもんじゃない……！)
いや、もし弟がいたら彼にも危害が加わる可能性があったわけだし、それはそれで良かったのだろうか。じゃなくて！
とにかく今はこの状況を打破せねば、と優秀な頭をフルスピードで回転させる。
男は３人。このままではこのチャラいナンパ男共に間違いなく強引に連れていかれる。こういう類の奴らは、おそらく力付くなんて非道なこともなんとも思わないのだろう。
せめて男一人をのすか、それでなくとも一瞬よろけさせられでもすれば突破口となるかもしれないが、生憎護身術なんて習っていないルルーシュがそんなことを出来るはずもなく。
仮に弟が来たとしても、彼がどうにか出来るかは怪しいし、なにより彼に危険な目には遭ってほしくないからこれもパス。
行き交う人々もこちらを一瞥するや否や知らぬフリをして去るだけで助けようとする者など誰一人いない。だからといって、元々人というものは自分が一番可愛いのだから、それを悲観することもない。
だが、それはつまり自分が八方塞がりということで。
(何か、何かないのか――！？)
「お嬢ちゃん、いい加減に大人しく一緒に来てくれないかなあ？」
正面に佇む男が、ニヤニヤと汚らしい笑みを浮かべてルルーシュを舐めるように見つめてくる。
「そうだぜ？ 俺達、君とお友達になりたいんだよ」
ルルーシュから見て左側にいる男がそう言うと、いきなりルルーシュの手首をがしりと掴んできた。
「ヒッ……！」
――気持ち悪い！！
嫌悪から思わず叫びそうになった、刹那。
「はいはーい、そこまでー」
ルルーシュと、彼女の腕を掴む男の間に割って入ってくる男が現れた。
自分を背にしているから表情は分からないけれど、長身で、金髪で、三つ編みをした、青年。
「何だよ、てめぇ」
いきなり現れ、さりげなく掴んでいた腕を解いた思わぬ邪魔者の登場に、左にいた男が脅しも兼ねてか幾分か先程より低い声音で喋る。
だが言われた青年は、相も変わらず飄々とした口調で声を上げた。
「何だはこっちの科白。こんな可愛い女の子一人に男が何人も群がるなんて、フェアじゃないと思わない？」
「な、んだと……！」
この飄々とした態度がなめられてると判断したのだろう。青年の言葉に勘忍袋の緒が切れたらしい男が拳を振りかぶりこちらに間合いを詰めてきた。
「言わせておけばぬけぬけと……っ！」
「な……！」
「うおっと！」
青年へと殴り掛かる男にルルーシュは息を詰める。
しかし当の本人は驚いた声を上げながらも間一髪屈むことでその攻撃を交わし――その際さりげなく片足を横へと伸ばした。
「おわぁ！」
当然勢いをつけていた男が急に立ち止まることなど出来るはずもなく、その足に引っ掛かり不様に顔から地に打ち付ける。まさに地面とお友達。
……………。
その場になんともいえぬ空気が漂う。
時が止まったかのような、沈黙。視線は全て目の前の転んだ男に固定されていた。
そしてその静寂を引き裂いたのは、突如乱入した青年。
ルルーシュは青年に前触れもなくがしりと腕を捕まれ、反射的にびくりと肩を震わせる。
くるりと首だけ振り返った男は、爽やかな笑みを湛えて言い放った。
「よし、今のうち！ 逃げるぜ、お姫様っ！」
「は、はい……！？ って、ほわあぁ！！」
なんだその姫って！！
と、叫ぼうとしたが、次に訪れた腕を思いきり引っ張られる感覚にその叫呼は半ば強制的に飲み込まれた。
走りだそうと踏み出したその瞬間にまるで蛙を踏み潰した時のような声が下から聞こえたが、敢えて無視することにした。ざまぁみろ。
未完成天国
きっとそれは全ての始まり。
しまった！ 男Ａ、Ｂは喋ってるのにＣは何も喋ってない！(今更)