「ルルーシュ、まだか!?」
「待て…もうちょっと…!」
「早くしろ! 授業が始まるぞ!」

 ゼロはルルーシュの自室の前でせわしなく腕時計を見た。
 もうとっくにSHRは始まっているから諦めるしかない。だが流石に授業には出なければまずい。
 こうなったら部屋に入って支度を手伝うか、などと考えていると不意に目の前の扉が開いた。

「お待たせ!じゃあ行こう……ってうわ!」

 現れたルルーシュを見るや否やガシ、と彼の腕を引っつかみ走りだした。

「ちょっ…ゼロ!こけるこける!」
「何言ってる!早くしないと間に合わないだろうがっ!」

 ドタバタと階段を降り全速力で走る。

「お二人とも、いってらっしゃいませ」
「ああ」
「いってきます咲世子さん!」

 急いでいるにも関わらずきちんと挨拶はする。律儀なものだ。

 朝から慌ただしい二人を、咲世子は温かい目で見送った。





 ドアを開けスロープを渡り真っすぐ走る。校舎はクラブハウスを出て真正面にあり、距離も近い。もしかしたら間に合うかもしれない。

 校舎に入り昇降口で靴を履きかえる。

 が、その時、無常にもチャイムが鳴ってしまった。

「あ、チャイムだ…」
「………」

 はぁ、とゼロは項垂れる。間に合わなかった。

「…仕方ない。途中からでもいくか」

 歩き出そうとすると、後ろにいたルルーシュがくい、とゼロの服の裾を引っ張った。

「…ルルーシュ?」

 ゼロが振り向くと、ルルーシュはニコ、と笑った。


 あ、嫌な予感。


 ゼロがそう思い口を開く前に、ルルーシュが言った。

「ゼロ。せっかくだからたまにはサボらないか?」



   †  †  †



「気持ちいいな、ゼロ。雲一つない空ってのはこういうのを言うんだな」

 空を見上げながらルルーシュは言った。

 確かに見渡す限り雲のない真っ青な空。こんな日は珍しい。いいサボり日和だ。
 …じゃなくて。とゼロは首を振った。

 結局サボってしまった。
 ゼロ自身勉強は好きではないし別にサボってもいいのだが、皆が勉強しているのに自分はこんな所にいるというのは多少罪悪感が沸く。それより何よりこれを機にルルーシュが虐められたりでもしたら…っ!

 と、見事にブラコンなゼロ。

 はぁ、とため息をついていると、いきなりルルーシュが身を屈めてゼロを真下からずい、と見上げてきた。

「ゼロ?」
「うわぁ!」

 慌てて飛びのく。
 無意識の可愛らしい行動に思わず大声を出してしまった。全くもって心臓に悪いことをする。
 いや、まぁ自分達は双子なんだし、それだけ信用してくれて無防備なのは嬉しいが…いや、やはり無防備でいないでくれ。でも無防備なルルーシュは可愛いし…。

 などと矛盾のループに陥っているゼロ。
 その傍らのルルーシュは不機嫌そうだ。

「ゼロ、お前、何か不満でもあるのか?」
「え?あ、いや…不満も何も…やはり授業には出ないとマズイだろうが」
「いいじゃないかゼロは頭いいんだから」
「お前の方が頭いいだろうが」
「まぁな」

 そう言ってルルーシュは空を仰ぎ見た。
 ゼロは目の前の弟をじっと見つめる。

 先程の会話ははたから見れば自意識過剰に見えるかもしれないがそれは違う。ただ自分に正直に生きているだけだ。
 ルルーシュはイエス、ノーをしっかりと言える少年だ。だから自分が悪ければ言い訳せずに謝るし、相手に良い所があれば素直に褒める。だから彼の周りには人が絶えないのかもしれない。


 ゼロが一人考えに納得していると、ルルーシュが突然思い付いたように声を上げると、床に座り込みトントンとコンクリートを叩いた。

「ゼロ、座って」
「? 何故だ?」
「いいから。足は伸ばして」

 突然の意味不明な言動に戸惑うが、可愛い弟の頼み。断るわけない。

 言われた通り座ると、ゴロリとルルーシュが足に頭を乗せてきた。

 所謂膝枕。

「っておいルルーシュ!?」
「あー…やっぱ気持ちいいな」

 ルルーシュは目をつぶり満足そうに呟いた。
 もちろんゼロは焦る。

「ち、ちょっと待てルルーシュ!」
「うるさい、眠れない」

 寝る気なのか!?とゼロが問う暇もなくルルーシュからはすぅすぅと寝息が聞こえてきた。

「…全く」

 眠ってしまったルルーシュの髪を梳くゼロの顔は、言葉とは裏腹に柔らかく微笑んでいる。
 たまにはこんな日もいいか、とひとりごちていると、屋上のドアを開ける音と同時に声が聞こえてきた。

 ゼロが、最も嫌う人物の声が。

「あれ?二人共、こんな所にいたんだ」

「……枢木、スザク」

 ゼロは苦虫を噛み潰したような顔をして嫌そうに現れた人物の名を呼んだ。

 スザクはゼロの心情に気付いているのかいないのか、ニコニコと笑いながら二人に近付いてきた。

「お前…なんでここにいる」

 常より低いゼロの問いに怯むことなくスザクは答えた。

「いや、深夜から今まで軍で仕事があってね。来たはいいけど授業は始まってるし二人はいないし。ルルーシュの性格ならこういうとこにきそうだな、って思って」
「………」

『ルルーシュ』という単語にゼロは眉を潜めた。

 枢木スザク。コイツは嫌いだ。
 ルルーシュはコイツに心を許しているようだが、自分はどうも信用できない。
 普段は温厚で優しそうな顔をするが、時々ルルーシュを見る目が変わる時がある。
 まるで親友以上の感情を抱いているような、そんな危うい目。
 気にしすぎだ、と言われればそこまでなのだが。

「それにしても、ルルーシュって綺麗な髪だよねぇ」

 言いながらルルーシュの髪に触れるスザク。

「!!」

 次の瞬間、無意識にゼロの手が動いていた。

 バチン!

「―――気安くさわるな」

 髪に触れるスザクの手を勢いよく叩いた。

 瞬間、二人の纏う空気が凍えるようなものへガラリと変わった。

「そんなむやみやたらに触るな。ルルーシュが起きるかもしれないだろう?」
「…そうだね、ありがとう。気付かなかったよ」

 二人は微笑む。
 だがその間にはバチバチと見えぬ火花が散っていた。
 双方共にそれぞれ違う意味で『何しやがんだこの野郎』とどすぐろい感情が胸中に渦巻いている。

「それにしてもルルーシュ、本当に君に懐いているんだね。あんなに警戒心の強いルルーシュが気持ち良さそうに寝てる」
「当たり前だ。私達は双子。誰よりも信じ合っているからな。お前によりもはるかに
「ふーん…。でも僕が来ても起きないってことは、僕にも君と同じくらい信用してるってことじゃないかな」
「自惚れるな。大体貴様は普段からベタベタルルーシュに触りすぎなんだよ」

 『お前』から『貴様』になったことは、この際気にしないことにしよう。

「いいじゃないか、友達としてのスキンシップだよ」
「友達? はっ! ふざけるな。ルルーシュの目はごまかせても、私の目はごまかせんぞ」
「あ、バレてた?」
「っ貴様…!」

 スザクの本音に思わず立ち上がろうとすると、ゼロの足の上に寝ていたルルーシュが眉を顰めて身じろぎした。

「ん…ゼロ…?」
「「!!」」

 まずった!!と固まる二人。
 ルルーシュは目をゴシゴシと擦りながらゼロに抗議した。

「ゼロ…せっかく人が気持ち良く寝てたのに…って、ん?」

 そこでやっと自分がいる空間にもう一人分の気配があることに気付いた。
 膝枕のまま、自分の体の反対を仰ぎ見るように視線をうつせば、固まっているスザクが見えた。

「あ、なんだ。スザクいたのか」
「え…まぁ、うん」

 スザクの返事を聞くと、ひょいと起き上がって伸びをした。

「うーん、よく寝た」
「………」

 膝から温もりが消え、ゼロは元凶であるスザクを睨み付けた。
 スザクも目を逸らすことなく受け止める。

 そこで一通り伸びを終えたルルーシュが二人に振り返った。

「そういえば二人共、随分と熱心に喋ってたな」
「き、聞いていたのか!?」

 やけに焦って訊いてくるゼロに首を傾げるルルーシュ。こんな彼は珍しい。

「いや、聞いていないが。……何を話していたんだ?」
「「………」」

 二人は目を合わせた。
 流石に本当のことを言えるわけもない。

「……まぁ、アレだ」
「あれって何だ?ゼロ」
「ルルーシュが可愛いな、って話してたんだよ」
「…はぁ?」

 澄み渡る青空の下、ルルーシュの呆けたような声が響いた。





それにしても目を擦ってる時のルルーシュってかわいいね。
何を言うか。驚いた時のキョトンとした時が最高にかわいらしいんだぞ。貴様馬鹿か。

……お前ら二人ともバカだ。





ぜ…前半思いっきりゼロルル…!
もうこのままゼロルルで終わらせようかと思いました(笑)
しっかし三つ巴って難しい…。チャンスがあればまたやりたいです。

このお話で何が大変だったかって、ルルが素直な子になっちゃうことです!
だってアレなんです。ゼロがルルの性格なのでどうもルルの会話や動作が可愛らしくなってしまう。ルルが喋るときは「キャラ壊さないように…」と呪文のように唱えていました。

や、やっぱり女体のほうが書きやすいかもしれません…ι