「随分と可愛い寝顔だな」
「……あまりその子に近付くな、C.C.」

 ゼロはキーボードを叩いていた手を止め、ベットで眠っている弟を無遠慮に覗き込むC.C.を剣呑に睨め付けた。
 自分へ向けられた彼の殺気じみた雰囲気に、C.C.はおお恐いと肩を竦める。しかしフリをしただけで、実際彼女の表情は全く恐がっているようには見えない。

「いいじゃないか。こんな子をお前が独り占めなんて狡いぞ」
「戯れ言を。……だから触るなと言っているだろうが」

 反論しつつも彼の髪を弄り始めたC.C.を見兼ね、ゼロはがたりと椅子から立ち上がった。
 ベットまで歩み寄ると、しっしとC.C.を追い払う。
 まるで虫を追い払うような扱いを受けたC.C.はといえば、不満そうに眉を顰めた。

「ふん。たいした独占欲だな」
「うるさい。お前は碌な人間じゃないからな。何するか分からん」
「勝手にしろ」

 有無を言わせぬゼロの様子からこれ以上の問答は無用だと察したのだろう。C.C.は、全くと呆れながらドアへ向かった。

「何処へ行く」
「どうやら私はお邪魔虫らしいからな。適当な場所をうろつく。アジトの中なんだから問題ないだろう」

 ゼロの問いに振り向かずに答え、ヒラヒラと後ろ手に手を振りながらC.C.はドアの向こうへ消えた。

「…不遜な女だな」

 ドアを見ながら、ゼロはぼそりと呟く。尤も、今に始まったことではない。
 しかしC.C.はいたく弟を気に入ったようだ。あんな他者に興味を向ける彼女は珍しい。それが悪い方へ転がらなければよいのだが。

 はぁ、とゼロは知らずため息を零すと、不意に視界の隅で傍らの存在が僅かに身じろぎするのが見えた。

「! ルルーシュ…!」

 それに気付き直ぐさまそちらに目を向ける。
 ルルーシュは、ふるふると瞼を震わせると、ゆっくりと目を開いた。

「……」

 覚醒したばかりの虚ろな目は、しばらく周囲へ視線をさ迷わせる。
 だがふとその視線がゼロに留まると、

「ルルーシュ」
「―――……」

 ふわりと。
 温かな笑みを浮かべ、ルルーシュはゼロへと手を伸ばした。
 前屈みに自分を覗き込むゼロの首に腕を絡め、そのまま引き寄せる。

「ルルー…」

 ゼロが名を紡ぐ前に。
 ゼロの唇に己のそれを重ね、ルルーシュはうっとりと気持ちよさそうに目を細めた。





 高貴なアメジストの瞳は、未だ朱に捕われたまま。





    †  †  †





「いない?」

 時は夕方。
 いくら学業が大切だからと言っても、その時間に学園に行ったとてやることなどないのは明白で。
 軍の仕事をつい先程終えたスザクは、何時もなら流石にこの時間に学校はやっていないだろうとアッシュフォード学園に来ることはない。
 だがこの日はルルーシュに夕食を共にしないかと誘われていた為、逸る気持ちを抑えクラブハウスへと足を向けた。

 最近は軍の仕事で忙しく、ルルーシュとの会話は電話のみ。
 それでもやっとルルーシュやナナリーと会える機会ができて、意気揚々と来たわけだが。

 来て早々目的の人が不在と聞き、スザクは不審そうに眉を潜めた。

 一方のスザクに話したクラブハウスのメイド、咲世子も困惑げだ。

「はい。先程お部屋へと伺ったのですが、中には誰もいらっしゃらなくて…」
「昼間はいたんですよね?」
「ええ。放課後も生徒会の方と書類整理をしていましたし、その後自室に入られるところも見ました」
「そうですか。……ナナリーには何か?」
「いえ、ナナリー様にお聞きしましたが、何も…と」
「……」

 いよいよ不可解だ、とスザクは顎に手を当てた。

 スザクとルルーシュが夕食の約束をしたのは昨日。あの律義なルルーシュがそれを忘れるなんて有り得ないし、一度約束したことをすっぽかすわけがない。それがスザクなら尚更だろう、と自惚れではない確信がある。
 それに例え急用ができたとして、スザクに何も言わないのは分からないでもないが(スザクは携帯を持てない為、ルルーシュからは連絡できないのだ)、ナナリーには必ず何か言い残すはずだ。彼は妹に心配させることを、何よりも一番嫌うから。


 なら、何故?


 ナナリーへと赴く時間もないほど急いでいたか、それとも―――。



 ナナリーの元へと行けない、『何か』があったか。

「……ルルーシュ」





君は一体、何処へ行ったの?




というわけでお話の続きです。
そしてごめんなさい。まだ続く予定ですιあまりに長くなったら連作部屋に移すかもしれません。
そしてそして。もしかしたらこのお話、スザルル前提のゼロルルかもしれません。書いてる本人がよく分かっていませんけどそうかもしれません。
ですから最後はスザルルVer.とゼロルルVer.の二つを用意しようかと。……ごめんなさいどっちも好きなんです!(叫)